日本のセクシャル・マイノリティに関する暴力
についての研究報告:
*1主任調査員:カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校エイズ予防学研究センター、カリフォルニア州立大学ロサンジェルス校公衆衛生学部
目次
要旨
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はじめに
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結果
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理論モデル:
どういった要素がセクシュアル・マイノリティ暴力の原動力として
働いているのか? . ... 17
結論 21
提案 26
最後に 31
謝辞
32
参考文献
34
要旨
当研究調査は、日本のレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・インターセックスを対象とし、以下に記す四種類の暴力を、彼らがどのように体験しているかを確認するために行われた。1)性的指向、または性的アイデンティティを理由として、本人に対してふるわれる暴力(バッシングなど)。2)親密なパートナー間での暴力。3)家族メンバーによる、または家族メンバーに対する暴力。4)自分自身に対する暴力。
さらに、以上のような暴力によるものと認知されている健康面への影響を測定し、これらの問題が日本でどう捉えられ理解されているのか、その背景にある社会文化的環境の特性を明らかにし、将来のより詳しい研究調査の指針となる問題群を明らかにすることを狙いとした。定性的インタビュー(n=39)、参与観察(n=54)、資料研究を利用した民族学的枠組み(エスノグラフィック・アプローチ)を用い、身体的・性的・言語的・心理的形態のバッシング、パートナー間暴力、自傷・自殺、あるいは家庭内暴力が、セクシャル・マイノリティ(性的少数派)にどのように振るわれ、又彼らがこれらの暴力をどう体験しているかを明らかにしようとした。参加者らには、これらの暴力が、軽度の身体的・心理的損傷から入院を要するような重度の負傷まで、また数例においては致死、という様々なレベルでの健康障害を引き起こしているとが、どのように認知されているかを明らかにすることを目的とした。
現代日本の社会文化的環境は、次の二点においてセクシャル・マイノリティに対する暴力を助長する傾向があることが明らかになった。第一点は、セクシャル・マイノリティの暴力に直接影響を及ぼすであろう一般社会における暴力犯罪率の上昇であり、第二点は、セクシャル・マイノリティに暴力的制裁を加えることを黙認する、社会生態全体に影響をおよぼす文化的ホモフォビア(同性愛嫌悪)の存在である。
今回の調査データに基づき、機構的組織、文化的ホモフォビア、個人レベルでの認識に焦点をあて、詳細に渡る提案をおこなった。
日本のセクシャル・マイノリティ(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・インターセックスの人々)を対象とした暴力に関わる調査研究は非常に少ない。日高ら(2000、2001a、2000b、2004)によれば、いじめ・ハラスメント、言語的虐待、性的虐待、自殺的思考および自殺未遂行為は、ゲイ・バイセクシャル男性間に広く見られている。しかし、セクシャル・マイノリティ間における、親密なパートナーによる暴力(IPV)、家庭内暴力、自殺完遂、またレズビアン・バイセクシャル女性・トランスジェンダー・インターセックスの人々の間におけるさまざまな暴力形態についての調査は行われたことがない。ゆえに、この探求調査は以下のことを目的とした。
B1. データ収集
2003年から2004年に、日本において以下の三種類のエスノグラフィック的枠組みを用いデータ収集を行った。それらは、1)綿密で半構造的な定性的インタビュー(n=39)。2)参与観察(n=54)。3)関連資料研究であった。 これら参加者のうち、9人は定性的インタビューと参与観察の両方に参加したため、総計の不重複サンプル数は84人(N=84)となった。データより、飽和状態にあるテーマ・関心事項が浮かび上がり、かつサンプル数は民族学的(エスノグラフィック)勧告基準を難なく超えた(Bernard, 2002)。
B1a. 定性的インタビュー
定性的インタビューは事前に予定された正式なインタビューであった。39件中31件は東京都で行われ、残る8件は京都府、名古屋市、千葉県、茨城県で行われた。インタビューは平均して2時間ほどにわたり、セクシャル・マイノリティとして生活していく上で生じる社会摩擦や個人間摩擦に関する質問群を用い行った。次第により細かく具体的な内容である暴力についてへと焦点が絞られていき、結果を形成するデータ取得の幅広さを保証するために、暴力体験報告の収集を三つのレベルで行った。これら三つのレベルは、1)自分自身の体験。2)家族、友人、パートナー、知人など親しい仲間内、「内(ウチ)」に対して起こった具体的な暴力体験。3)「内」以外の「外」の人に起きた具体的な暴力体験に関する知見であった。さらに、参加者に自分の体験、あるいは他の人の体験、またその両方のうちで最も適した方法で、暴力について話すように依頼した。他人に起きた暴力体験の報告を単に「聞き伝え」として軽視するのではなく、参加者の仔細にわたる報告を貴重なデータとして受け止めることは重要である。沈黙に覆われたセクシャル・マイノリティ暴力の状況と加害者・被害者の一般的不可視性を考慮したときに、この初期段階での研究調査において、関係のある報告を逐一記録することの重要性は強調しすぎ得ない。全てのインタビューは、許可を得た上で分析するために録音され文書に起こされた。出版用に投稿された論文類においては、秘密性を保持するため個人名や個人を特定できるような個人情報はインタビュー記録から除き、ジェンダーに則した仮称(例:匿名)のみを使用した。

B1b. 参与観察
参与観察は、ほとんどがセクシャル・マイノリティの集う場で行われたが、「一般」の場で行われることもあり、具体的には、コミュニティ・メンバーとの日常的な交流を図り、コミュニティ活動に参加すること、観察、参加者とのカジュアルで突発的なインタビューを行った。参与観察のほとんどは研究者が研究調査期間住んでいた東京、さらには都内におけるセクシャル・マイノリティ・コミュニティの中心地である新宿二丁目において行われた。カジュアルなインタビューからの発言引用や、行動観察などを含めた以上の参与観察は、すべてフィールドノート(現場からの記録)に記録され、専門的な分析がほどこされた。
B1c. 関連資料研究
関連資料研究においては、米国では手に入れづらい日本の書籍や記事・論文などの学術資料、セクシャル・マイノリティ暴力に関する二次的データ、法律、政策を含んだ入手可能な限りの公的文書、雑誌やウェブサイトなどのセクシャル・マイノリティ出版物、および新聞、雑誌、インターネットを含む主流の情報資源を調査し検討た。
B2a. 定性的インタビュー
この調査のために正式にインタビューしたのはのべ39人であった。26人のセクシャル・マイノリティ・コミュニティの成人メンバーをスノウボール式サンプリングにより集めた。これは一人以上のキーパーソンとなる個人を見つけ、その人にさらなる研究のためにネットワーク内の人を紹介してくれるように頼み、これを新しい参加者ごとに繰り返して行くという方法で成り立つ(Bernard, 2002)。さらには、有意抽出により定性的インタビューのサンプリングに多様性を持たせ(Patton, 1990)、仕事を通して、保健医療、法律、セクシュアル・マイノリティ関係の学術調査、暴力予防を含む社会福祉におけるセクシュアル・マイノリティ暴力について、具体的な内部情報を有している重要情報源となる13人の「エキスパート」と呼ばれる人々を特定した。この調査に参加するためには、セクシャル・マイノリティ・コミュニティの人は、1)20歳以上であること、2)自らレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、またはインターセックスであるとオープンにしていること、これらの二つの条件を満たしていなければならなかった。エキスパートとして参加するには、1)20歳以上であることと2)セクシャル・マイノリティIPVに関して専門的知識を持っていることが条件だった。特記すべきことは、エキスパートとして適合するためには、セクシャル・マイノリティであることが条件ではなかったにもかかわらず、13人中10人のエキスパート参加者は自らセクシャル・マイノリティであると名乗り出たことである。正式な定性的インタビュー参加者の人口学的情報は表1にまとめられている。
B2b. 参与観察
スノウボール式サンプリングは、社会的ネットワークを有効活用するために、参与観察の際にも用いられた。私たちは、参加者の性的アイデンティティを理由に、研究調査参加を拒否することはしなかった。逆に、異性愛者の持つセクシャル・マイノリティ暴力に対する知識や認識は、セクシャル・マイノリティである参加者らより得たデータを補填し、状況の背景理解をより広範囲にわたり明確化させる上で価値のあるものだった。
参与観察のサンプルは、20歳以上の成人54人を対象にした。この参与観察では、比較的カジュアルなインタビュー形式や交際の一過性のため、収集された人口学的データは性別と性的アイデンティティ情報のみに限定された(表2)。特筆すべきことは、参与観察に参加した54人中9人は、より正式な形で行われた定性的インタビューにも参加したことである。
表1. 正式な定性的インタビュー参加者の人口学的情報(n=39)
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人数 (%) |
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参加者基本属性 セクシャル・マイノリティ・コミュニティの一員 エキスパート・重要情報提供者 |
26
(67) 13
(33) |
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性別・性的アイデンティティ 男 女 トランスジェンダー 男から女
(MTF) 女から男
(FTM) インターセックス |
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性的指向 ゲイ(男性同性愛者) レズビアン (女性同性愛者) バイセクシャル (両性愛者) 汎セクシャル(誰でも受け入れ可能) ヘテロセクシャル(異性愛者) 不確か・レッテルは使わない 応答拒否 |
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年齢
(平均=
32.6才) 20-29 30-39 40-49 50-59 |
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雇用形態
a 常勤者 アルバイト・パート従業者 学生 無職 |
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居住形態 独居 親と同居 ルームメートと同居 パートナーと同居 |
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婚姻状態 現在結婚している(異性の配偶者) 離婚している(異性の配偶者) 未婚 |
a複数回答を認めているので、合計は40件以上となっている。
表2. 参与観察サンプルの性別・性的アイデンティティ (n=54)
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人数(%) |
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性別・性的アイデンティティ 男性 女性 |
35 (65) 19 (35) |
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性的指向 ゲイ(男性同性愛者) レズビアン (女性同性愛者) バイセクシャル (両性愛者) パンセクシャル(誰でも受け入れ可能) ヘテロセクシャル(異性愛者) |
25 (46) 6 (11) 1 (2) 1 (2) 21 (39) |
参与観察から得たフィールドノートと録音された定性的インタビューから得た逐語記録は定性的データ解析を行うためATLAS.ti 5.0 (Scientific Software Development, 2005)というソフトウェアを使い、繰り返し現われる主題と概念的つながりを浮き立たせるために分析された。分析法はデータ密着型理論(グラウンデッド・セオリー)